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私たちの取り組み

庄内スマート・テロワール

“庄内産”で未来をつくる
~庄内スマート・テロワールのおいしいもの~ 1皿目

庄内産の商品

【畜産加工品ができるまで】

  • 庄内の耕種農家が水田や月山高原で飼料用トウモロコシを生産

  • 山大附属農場でトウモロコシを配合飼料にして畜産農家へ

  • 加藤畜産と山大附属農場で豚を肥育、庄内食肉公社に出荷して屠畜(とちく)

  • 太田産商(株)で、種類・部位別の規格肉に加工

  • (株)東北ハムで加工品を製造

  • (株)ト一屋と主婦の店で販売

〈参加者〉
庄内スマート・テロワール
畜産チーム

  • (写真左から)
    株式会社 東北ハム 営業部
    成澤芽衣さん
  • 株式会社 東北ハム 代表取締役社長
    帯谷伸一さん
  • 山形大学農学部 教授
    浦川修司さん
  • 株式会社ト一屋 みずほ通り店 精肉担当
    佐藤晃

進行:コマツ・コーポレーション

――畜産チームの発足にあたって、帯谷社長が参加を決められたのはなぜですか。

帯谷松尾(雅彦)さんのマーケティング論を聴講して、これは面白そうだと。精肉ではなく加工品での販売が前提で、しかも豚を育てるところから加工、販売まで、消費者の声が聞こえる形でやっていくということでね。我々メーカーは商品を作って売ることはあっても、全体を知る機会は少ないので、学びながら取り組めることが一番の魅力でした。

――畜肉加工品の中でも、なぜウインナー、ハム、ベーコンだったのでしょうか。

帯谷売れ筋の商品から選びました。私たちは豚1頭を預かって、どの部位をどのくらいの価値で加工するかを考えます。ロースならハム、バラならベーコンがおいしいので、その 2 つがまず決まって。ヒレと肩ロースはうまく活用できなかったので全部ウインナーになりました(笑)。もったいないようですが、肉のおいしさが出せましたね。

帯谷伸一さん

株式会社 東北ハム 代表取締役社長
帯谷伸一さん

――ヒレ入りウインナーなんて贅沢ですね。商品開発は、ト一屋さんでの店頭販売でお客様の声を取り入れながら試作を重ねたそうですね。

佐藤先生や学生さんから何度か店頭に立っていただいて、試食とアンケートを行いました。味が決まるまで試行錯誤しましたが、徐々にお客様から「これはおいしいの~」と言っていただけるようになって。お客様の声を直接商品に反映する方法は経験がなかったので良い機会でしたね。

浦川延べ2~3000人ぐらいのお客様にアンケートに答えていただきましたね。
酒田の市民性なのか皆さんフレンドリーでありがたいなと思いました。学生も最初は店頭で大きな声を出すことに抵抗があったようですが、「単位がかかってますから」なんて言いながら(笑)徐々に楽しんで取り組むようになりました。豚の肥育、販売と、自分が関わったことの反応をじかに確かめられるわけですからね。

佐藤晃

株式会社ト一屋 みずほ通り店
佐藤晃

――味は最終的にどのように決められたのでしょうか。

浦川松尾さんが「開発する商品は、トップのナショナルブランド(NB)よりもおいしく、価格は3割程度安く」と。“おいしいものを安価に”ということですね。NB商品と東北ハムさんの商品を試食に並べて、NBの半数以上の評価を得たら商品化と決めました。

帯谷ベーコンとハムは初回から評価を得ましたが、ウインナーが惨敗で。味や香辛料、脂、ケーシングの硬さとさまざまな角度から試作を重ねて、トップシェア商品以上のものを目指しました。山大の学生さんがアンケートで意見を吸い上げて、消費者の嗜好がストレートに入ってくる環境があったのがよかったです。商品化までのプロセスは貴重な経験でした。

浦川修司さん

山形大学農学部 教授
浦川修司さん

――売価がかなり割安になるのでは?

浦川松尾さんとよく話したのは、原価の積み上げではなく小売店の意向を重要視しようと。スーパーさんが「この値段では売れない」ということであればチームで検討していく。おいしいものを高い値段で売るのは当たり前の話で、おいしいものをより安く売るのがスマテロですからね。

帯谷ただ、それでは儲けがないんじゃない?っていうことですよね(笑)。でもエサからすべて地元産なので、輸送費を含む原材料費を抑えられたことで低コスト化ができましたね。

――コストでいえば、豚のエサは当初、飼料メーカーから購入して配合していましたね。

浦川トウモロコシと飼料用米は地元のものでしたが、小麦の製粉副産物「ふすま」は飼料メーカーから購入していました。今は、地元で生産された小麦の製粉副産物が地元産「ふすま」として還元されるようになったので、エサの80%以上が庄内産です。

――おいしいものを安く売るためにはチーム全体の努力が必要ですね。

浦川そうですね。生産者も加工業者も、当然利益を追究しないといけないわけですが、松尾さんの言葉を借りるとスマテロは「コブの事業」。たんこぶのコブですね。本体の収益があって、コブとして新規事業に投資する。

帯谷質の高いものを安く売ることにはやや抵抗がありましたが、お客さんが喜んで、それが商品価値としてブランド全体を引き上げるなら、けっして利益に貢献しなくても必要な事業だと松尾さんからくどいくらいに言われました(笑)。
宣伝も味のモニタリングもすべて山大さんが請け負ってくださっているし、無駄をそぎ落とせば、おいしく安く売ることはやってできないことはないと思いました。

――商品化から発売まで1~2年というスピードは速いほうだと思います。

帯谷小売店がこの取り組みに最初から入っていたからですね。売れるための商品作りが最初からできたんです。

――おいしいものを安く売るためにはチーム全体の努力が必要ですね。

佐藤そうですね。月2回の納品ですが、次の納品までにはきれいになくなります。お客さんからも「今日ありますか?」なんてよく聞かれるようになりました。

浦川納品に行くと、試食会に来てくださっていたお客さんから「先生、この頃見ないね~」なんて言われてね。私は県外出身なので、山形にお友だちができたようでうれしいです(笑)。

――小売店として1つの商品にここまで携わることはあるのでしょうか。

佐藤ないですね。生肉であれば問屋さんや取引のあるところとの関わりはありますが、加工品に関してはここまで深く携わったことはないです。

――多くの畜肉加工品がありますが、消費者の傾向はいかがですか。

帯谷安価なものは変わらず人気ですが、売れ筋商品の価格帯は中より上になりましたね。よりおいしいものを求める方は間違いなく増えています。

佐藤ベーコンでいうと脂が少ないものが好まれています。健康志向もあるでしょうし、当店は年配のお客さんも多くいらっしゃるからだと思いますが。

浦川スマテロ商品は脂身がとてもおいしいんですが、試食会の時にちょっと気になるというお客さんの声はありました。帯谷社長と相談して、ベーコンのブロックの脂身の少ない部分を店頭販売用に回して、脂身の多い部分はレストランやベーカリーなどで使っていただいています。油を使わずにベーコンの脂でおいしい味が出るということで。

――スマテロの発足から5年がたちましたが、今の課題はありますか。

帯谷商品の量がエサの量に左右されて増産できないという実情はありますね。
私たちとしては課題というより、明らかに意識が変わりました。我々の業界は輸入豚肉が6~7割で、安定的な価格と品質を提供するのが使命だったんですが、スマテロに関わって、材料から地元産でやっていけることが分かりました。地域を語るストーリー作りにも役立つということで、今後もスマテロの環を広げていけたらと考えています。

浦川5年を一区切りとしてスタートしましたが、庄内をスマート・テロワールにするには松尾さんは30年かかると。少なくとも 10 年、15 年ぐらいかけて、この取り組みは根づくものだと思っています。そもそもエサの土づくりから入るので、土をつくって作物を健康に育てるだけでもそれなりの期間がかかりますしね。

――この5年でト一屋さんでは売り場の構成も変わりましたね。

佐藤はい。以前はNBが多くを占めていたのが、地元で作ったこだわりの商品を反映したほうがお客様に喜ばれることが分かったので。今後は、地元のおいしいものを買いやすい価格で、という方向でないと厳しいのかなと思っています。結局は価格競争なので、PBを持っていると強い。強いというか喜ばれますね。

――コロナ禍で、食生活にも価値観の転換があったように思いますが、影響はありましたか。

浦川コロナ禍で食品のサプライチェーンが混乱して、安定して原材料が入らないという問題がありましたよね。その点、地域でエサから調達できるスマテロの取り組みは非常に大事だというのは皆さんに知ってもらえたかなという気はします。

――試食会でアンケートに答えたお客様は、商品開発に参加したという意識があるかもしれません。それも商品への愛着を生みますね。

帯谷それがPBの良さで、お客さんの声をモニタリングしたらやらざるを得ないというか、やらないとその商品の価値が半減してしまいますからね。

浦川お客様の声を聞きながらより良い商品に改良したり、売り方を考えたり。チームの皆さんがフレキシブルに対応してくださるのでできることです。

――小売店にとっても「売りたい・売りやすい商品」がありますよね。

佐藤やっぱりスマテロのようなこだわりのある商品は売りたいですよね。他店にはない良い商品を仕入れて、それをお客様が喜んで買ってくださる。そこが基本ですから。

浦川商品を販売するにあたっては「ストーリー性」は非常に重要だと思いますね。エシカル消費だけではなく、おいしさは科学的にも証明されているものですから、そこを大学として研究面で支える、裏付けを示していくのが大事なのかなと思っています。

佐藤裏付けは、お客様に自信を持って勧められる根拠になりますね。これは買って間違いないです、食べて安心です、と。その点で今はお客様に伝えることの課題も感じています。

帯谷スマテロは地消地産ですから、地元で愛される、特徴のある買いやすい商品を考えていく必要がありますね。

浦川庄内の人たちにスマテロ商品自体を愛していただくのが大事なんですよね。価格競争の中でも買ってもらえる商品を作らないといけない。

――スマテロを通して、庄内地域の未来がどうなっていくのが理想ですか。

帯谷発足当初に、松尾さんから北海道美瑛町のパッチワーク風の畑の風景を見せていただきました。庄内も小麦やとうもろこしといったいろんな作物が栽培されるようになって、田と畑がパッチワークのようになって、景観的にも観光の方々を楽しませられるようになればね。「農村からの視点で豊かな地域をつくっていくのが理想」だと松尾さんは仰っていましたから、その理想郷に近づいていきたいです。

浦川この商品は外へ販路を持つことは考えていません。庄内に来たらスマテロが生み出すきれいな景観があり、そこから生まれるおいしい食品が食べられる。そんなふうに観光と結びつけて庄内に人を呼べたらいいですね。「食と農で支える観光」が庄内にできれば非常に嬉しいです。この取り組みを通して、まずは農業の未来は明るいということを知ってほしい。農業の中でも循環がある、その全体が庄内で回っている。スマテロは SDGs そのもので、これから地球規模で取 り組む課題の解決策の一つだと思っています。

〈商品情報〉

庄内スマート・テロワール
ウインナー、ハム、ベーコン

各1パック 322円(税込)※2022(令和4)年8月現在
販売店舗:みずほ通り店

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