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私たちの取り組み

庄内スマート・テロワール

“庄内産”で未来をつくる
~庄内スマート・テロワールのおいしいもの~ 3皿目

庄内産の商品

【小麦加工品ができるまで】

  • 農家で小麦を栽培して、商店(製麺、製パン、製菓等)や飲食店へ出荷

  • 山大と生産者で収量や品質の維持について継続的に研究、栽培

  • (株)ト一屋から花鳥風月、無量庵に発注、生産、販売

〈参加者〉
庄内スマート・テロワール
畜産チーム

  • (写真左から)
    株式会社 花鳥風月 代表取締役
    佐藤勇太さん
  • 株式会社ト一屋 第三食品部 部長
    後藤正光
  • 麺工房 無量庵 店主
    阿達要さん

進行:コマツ・コーポレーション

――スマート・テロワールに参加されたきっかけをお聞かせください。

佐藤「ト一屋さんにおいしいベーコンとハムがある」と知人に聞いて、食べてみたらすごくおいしくて。養豚のほかに小麦も作っていると知ってすぐ山大に問い合わせたんです。「チャーシューにするんですか?」と聞かれて「いえ、肉じゃなく小麦の方で」と(笑)。もともと私はオール庄内産でラーメンを作りたいという夢があったので、地粉があるとは思いもよらず驚きました。

阿達私は山大の中坪先生からスマテロ小麦を使った麦切りを販売したいと依頼を受けました。これまでも原材料には地元産を極力使うようにしてきたので、スマテロの取り組みに共感して、社会貢献ではないですが地域への還元の一助になればということで、じゃあやりましょうと。

後藤私どもとしては、麺は導入しやすい商材だということが前提にありました。例えば豆腐はあまり高価だとなかなかお客さんに手に取っていただけませんが、酒田は麺文化が根強いので安さだけでは通用しません。その点で地産の麺への期待もありましたし、あとはやはり私どもは地元に育てていただいている企業ですから、酒田や庄内の地域内で循環できればという気持ちがありました。

佐藤勇太さん

株式会社 花鳥風月 代表取締役
佐藤勇太さん


阿達要さん

麺工房 無量庵 店主
阿達要さん

――小麦の産地といえば北海道が全国シェアのトップですが、もともと山形県ではどのくらいの量がとれていたのでしょうか。

佐藤スマテロの発足当初、山形県の小麦の収量は約200トンほどで、全国で33番くらいだった記憶があります。スマテロの活動が意気込みだけで終わらないように達成値を設けようと、農家さんと山大さんと私とで、5年で100トンという目標を立てたのが2年目の冬でした。

――1年目の単収は280キロほどでしたよね。酒田の麺組合の年間の消費量が約10トンと聞きました。

佐藤そうですね。農家さんにとっては収量を上げても買い手がなければリスクになりますから、私が参加した年は花鳥風月で全量1トンを購入しました。その中からラーメン店に配ったり、地域で小麦を扱っている店舗にお分けしたり。翌年度、単収430kg、総収量12トンまで引き上げてからは、酒田の麺組合で全量を買って、みんなで育てていこうという取り組みの中で進んできました。昨年度はさらに増え、総収量20tで、1年に2回製粉することもできました。

後藤正光

株式会社ト一屋 第三食品部 部長
後藤正光

―― 2022年度産の収量は30トンが見込めるそうで、使用しているお店も増えましたよね。ちなみにお二方が普段お店で使われている原材料の小麦粉はどのようなものですか。

佐藤大手メーカーの国産と外麦のミックス粉です。

阿達麦切りは全量、北海道産です。粉が違うと香りや色、強さ、コシが違うんですよね。

――スマテロ小麦は「ゆきちから」という製パンに適した品種といわれていますが、中華麺と麦切りの開発はいかがでしたか。

阿達正直、最初は麺にするとあまり良くはなかったんですよね。あくまで普段使っている小麦と比べてですが。年々、色味も食感も上がってきたと実感しています。

佐藤一級品と比べてしまうと、中華麺としてはゆでのびが早かったんです。本来2分かかるものが50秒でできあがるので、食べていくうちにのびてしまう。
ゆきちからの良さは、しなやかでツルっとしたのど越しですが、ラーメンはどちらかというとコシなんですね。今、全国的にはツルっとしたのど越しが流行りですが、酒田のラーメンはコシを重要視しているので、つなぎの役目でゆきちからにはすごく期待しています。
幸い酒田のラーメンは小麦を多数ブレンドして作りますから、配合率によって粘度を上げたり、しなやかさを出したりと、他の粉で補う作り方ができます。初年度は大変でしたが、近年のクオリティは非常に作りやすくなりました。

――小麦は気候や栽培管理によって品質が左右されやすい中で、農家さんが地道に技術を高められたんですね。小麦粉は「コシ」のもとになるタンパクが低いと中華麺には向かないそうですが、品質については農家さんとどのようなやりとりをされてきましたか。

佐藤農家さんとは、タンパク値を上げるにはどうしたらいいかなども率直に話してきました。「そうなると小麦の値段はこのぐらい上がるよ」と言われれば、我々も正当な対価をいただくために「じゃあこの値段で農家さんだったらラーメン買う?」「それは高いの。ラーメンは600円ぐらいでねば」みたいな会話ができて、双方の理解が深まった形です。農家さんとふれあう機会なんてなかなかないですが、スマテロを通して農業経営にまで突っ込んだ話にもなって。それぞれの思いがあって、お互い歩み寄って、いい商品を作るためにどうするかを考えてきましたね。

阿達たしかに今のスマテロ小麦はコシが強いので、配合すると麺自体が強くなりますね。今は中華麺に適した作り方をしていると農家さんが言っていましたが、私もそう思います。スマテロ小麦100%でも十分おいしいです。

――生麺で販売するために工夫された点などはありますか。

佐藤販売用と店舗用の麺は違っていて、ト一屋さん仕様は、主婦の方が茹でやすい、おいしい時間が持続しやすいように配合を変えています。我々にはプロの調理器具があって、ゆで時間も10秒や5秒刻みのタイミングで麺を上げられますが、ご家庭だとIHの方とか、鍋が小さい方とかさまざまですから、ある程度の平均値をとって、家庭でもお店と同じ味わいのものを作ってもらえるような着地点を見極めました。

阿達私もお店の麺と販売用の生麺は違えていて、販売用はスマテロ小麦100%です。調理の工程は同じでもお客様はそれぞれですから、提供する時に説明書きといいますか、ゆで時間とか、おいしく食べていただける方法を提案していかないと、というのはあるんですよね。

後藤たしかにゆで時間は難しいですよね。花鳥風月さんに食べに行くとやっぱり違いますもんね、当たり前ですけど(笑)。私たちもサンプルで試作しますが、ゆで方の説明があれば非常に参考になります。コロナ禍以前に店頭で試食会をした時も、麺はのびますから茹でて用意しておくことができなくて、味を正しく伝えるのがなかなか難しかったです。

――麺食文化の地元商品に対する注目度は高そうですが、売り場の反応はいかがでしたか。

後藤反応は非常に良かったです。一般的にラーメンは麺とスープのセットで販売されている商品が多いですが、庄内は麺とスープが別々で動く地域なんですね。麺とスープ、自分の好みで組み合わせる。大手の NB メーカーさんからは特殊な地域だと言われます。そうした中でもスマテロ麺は、食味や価格帯も受け入れられたようで、反応は良かったですね。

――価格の話が出ましたが、スマテロの発足当初は小麦の収量が少ないために、県内や近県の製粉会社の発注ロットに満たず、北海道の製粉会社にお願いしていたと聞きました。県外への流通経費を抑えながら販売に見合う価格にするのは大変だったでしょうね。

佐藤そうですね。北海道の会社は小ロットに対応してくださいましたが、運賃を加算すると県内製粉の2倍のコストがかかったんです。今は収量も増えたので東根市の小川製粉さんにお願いしています。それぞれが利益を得ながら継続できる価格を調整して、今は均衡を保ってやっている状態ですね。

――小麦の製粉は奥が深いそうで、粒度やひき方のノウハウ、お店のこだわりもありますし、製粉会社との連携は商品づくりには大切ですね。

佐藤一概にゆきちからと言っても、いろんな顔を出すんです。米も作り手が違うとまったく違う表情が出るじゃないですか。スマテロの小麦は製粉過程で1つの小麦から30種類以上の粉に分類されるらしいんです。生産、製粉、加工、この3つで一つのものを語れるというか。

――三者があって成り立つ、スマテロの「互酬経済」という考え方につながりますね。今、発売 から2年がたって、見えている課題はありますか。

阿達農業は自然が相手ですから、毎年同じ品質のものができればいいわけですが、そこは今後クリアしていく段階としてあるでしょうね。大手のメーカーが強いのは、毎年安定したものを出せる技術力と収量。その点は山大さんという研究機関が中心にあるわけですから、これから向上していくと思っています。

佐藤農家さんの目線で言えば、我々から求められる価格の部分。それに応えるには高価な設備導入が必要で、何年で減価償却できるのか、共同で使う方法があるのかなどは山大さんとも話しています。
加工者と製粉会社の課題は、物流にかかるコストの圧縮。加えて、消費者に価値を理解して買ってもらえる最適な価格設定ですね。だからこそ我々作り手は、バックヤードまで見える説明をする、そのアンテナでないといけないと思っています。

――品質の安定化と適正価格ですね。後藤さんはいかがですか。

後藤商材のアイテムはこれから一つ大きな課題になってくると思います。どのメーカーの商品もそうですが、導入した1年目はまずは動くんです。2年目になると1年目と同等の数は動かなくなる。大手が毎年新商品を出すのはそのためで、まさに手を変え品を変え、一つの主力品を売るために付随した新商品を出して、相対的に認知させていく。すると主力品も落ちずに上がっていく。同じものばかりだと数字は落ちていくので、商品の開発が大事になってくるんじゃないかと。それは私たち販売の立場からですが、そうしていかないと必ずどこかで頭打ちになってしまうので。

――一つの商品をベースに、新しいフレーバーなり種類を加えていくことで、主力品もその展開商品も数をキープできていく。カルビーのポテトチップスなんかもそうですよね。

後藤売る側としてもやりやすいというか。例えば売り場に1品しかないとお客様には選択肢がない。それを買っていただくためにもう一つあって、選んでもらって、お客様は選ぶのも一つの楽しみなので。飲食店のメニューも同じですよね。主力があってそれを補完するために他のメニューを出して選んでもらうという。

佐藤そうですね。

――たしかに庄内の麺文化もラーメン、麦切りと、たくさんのお店の味がありますね。多種多様になることで麺文化が築かれてきたというか。

後藤まあ作るほうは大変ですけどね(笑)。でも希望としてはそういう思いはあります。

佐藤来年度の課題に一つ入れなきゃだめですね、スマテロの前に自社ですが(笑)。

――課題は見えているところで、自分はこうしていきたいという想いがあれば。また、スマテロの将来について理想などもお聞かせください。

後藤今は麺の種類でも、中華麺や麦切りは地場のものがありますが、小麦をベースに考えていくなら、うどんとかその他の麺類もあるといいですよね。これから広げていきたいというか、そこにトライできる部分もあるし、私たちもぜひそうした地場の商品を販売していきたいなと思います。

佐藤スマテロはまだ足元を固めている段階ですが、地場産に興味を持ってもらって、そのバックヤードまで考えて商品を購入するというストーリーが、消費者の皆さんの中で生まれてくれたら理想的ですね。

阿達やっぱり「地域」というは一つのキーワードですよね。私は鶴岡で育って鶴岡に戻って、この土地の文化や様式のようなものがあると感じます。今、私たちがやっていること、やっている意味、なぜここにいるのか、ここにあるのかとか、それは東京では得られないものなんですよね。そうした風土のすがたを提案していくことに意味があると思っています。

――自分たちが暮らしている土地の利、アイデンティティ、その一つにスマテロの取り組みがある気がしますね。

阿達例えば出羽三山に置き換えると、修験道は、過去、現在、未来と再生していくわけですよね。それと今やっていることは似ていて、循環という一つの共通項がある。そういうことをあえて発信したり言わずとも、「じつはこうなんですよ」と伝える方が面白いかなって。我々がここで育って生きてきて、今ここにいることを、スマテロの取り組みを通して表現していけたらいいなと思いますね。

〈商品情報〉

庄内スマート・テロワール
花鳥風月 酒田のラーメン

1袋 2 食入 214 円(税込)※


無量庵 麦切り

1袋 2 食入 322 円(税込)※


※2022(令和4)年8月現在の価格
販売店舗:全店

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